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旅行及び関連ビジネスの発展動向について(2019年)

旅行及び関連ビジネスの発展動向について(2019年)  

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行政院主計総処が民国105年(2016年)に発表した、「中華民国行業標準分類(中華民国業種基準分類)」の第10回目の改訂によれば、「旅行及び関連ビジネス」とは旅行業とその関連ビジネスに従事している職を意味し、例えば旅行プランのコーディネートや販売、ツアーガイドやツアーコンダクターの手配、旅行インフォメーションサービスや予約代行等のサービス等がそれに該当し、他にも交通サービスや芸術パフォーマンス、スポーツイベント及びその他レジャーイベントのチケット予約購入の代行も同部類に属する。

直近5年分の統計データによると、民国108年(2019年)における台湾の旅行及び関連ビジネスの業者は4,015社に達し、前年比65社の増加で、ここ5年間成長を続けている。

 

 

圖1
出典:中華民国財政部資料センター
図1 民国104年~108年(2015年~2019年)旅行及び関連ビジネス
圖2
出典:中華民国財政部資料センター
図2 民国104年~108年(2015年~2019年)旅行及び関連ビジネスの売上高推移


旅行及び関連ビジネスの売上げは、民国105年(2016年)から減少し始めたが、民国107年、108年(2018、2019年)で売上が伸び続け、総額359億台湾ドルに達した

圖3
出典:中華民国主計総処による給与及び生産性の統計データ月報
図3 民国104年~108年(2015年~2019年)旅行及び関連ビジネスの従業員数推移



直近5年分の統計データによると、台湾での同業種における従業員数は3万1千人ないし3万2千人の間を推移し、ここ2年で増加傾向が見られ、民国108年(2019年)には32,005人にまで増加した。

上述のデータから、近年台湾での旅行及び関連ビジネスの業者数は増加し続けていることがわかる。台湾の旅行業者は多くが中小企業であり、近年の旅行系スタートアップ会社、オンライン旅行会社、旅行商品価格比較サイト、旅行情報交流サイト、世界的大型旅行サイト等の発展によって、ICTやAI等のテクノロジーと融合され、よりバラエティに富んだ旅行商品の選択肢が提供されるようになった。消費者が旅行商品を取り扱う業者とダイレクトに問い合わせるパターンが日増しに定着し、関連産業のデジタル・トランスフォーメーションを後押しした。それに伴い旅行商品の価格や情報はより透明性が増しため、従来旅行産業バリューチェーンのこれからのあり方が問われ、旅行業の収益モデルや市場のエコシステムに深く影響している。


台湾交通部観光局の統計によると、直近5年のインバウンド客数は年々増加しており、民国107年(2018年)時点ですでにのべ1,100万人を突破し、翌年のべ1,186万人まで増加した。近年台湾の旅行ビジネスは著しい発展を遂げており、継続的な成長傾向がうかがえる。
 

圖4
出典:中華民国交通部観光局
図4 民国104年~108年(2015年~2019年)インバウンド客推移

台湾の旅行及び関連産業は政治や経済、交通、輸送等の影響を受け、近年インバウンド客数の構成が徐々に変容している。民国97年(2008年)に両岸交流が開放されて以降、中国人旅行客数が伸び続け、インバウンド需要の主役となった。しかし政治的な影響から、民国105年(2016年)5月より減少し始めたが、他国からの累計インバウンド客数は伸び続けている。とりわけ日本と韓国の上昇幅が大きく、台日、台韓間で締結されたオープンスカイ協定の恩恵を受け、新航路の開通がより多くのインバウンド需要をもたらした。さらに日韓貿易紛争が勃発した後、日韓間の旅行客数は激減したため、代わりに台湾を旅行先として選ぶ人が増加した。訪台日本人旅行客数は民国108年(2019年)12月にのべ200万人を突破した。また、台湾政府が民国105年(2016年)に打ち出した「新南向政策」によって、対象国からの旅行客に対しビザ免除や電子ビザ等の緩和措置が適用され、東南アジア、アジア太平洋地域との観光交流の促進に寄与した。その成果もあり、民国106年(2017年)東南アジア諸国からのインバウンド客は のべ200万人を突破し、2年後にはのべ259万人に達した。
 

 

圖5
出典:中華民国交通部観光局
図5 民国104年~108年(2015年~2019年)国地域別インバウンド客推移

 

直近5年分のインバウンド客数統計を国地域別で見ると中国からのインバウンドが最多を占めていることがわかる。しかし台湾交通部観光局の「來臺旅客消費及動向調查(訪台旅行客消費及び動向の調査)」によると、中国人旅行客の台湾での過去5年間の消費総額のうち、買い物支出が占める割合及び1人1日あたりの消費金額が共に減少していることがわかる。そのため、旅行及び関連サービス業が経営戦略を立てる際にも旅行客の消費行動の変容に留意する必要がある。また、現時点で中国がインバウンド主要国ではあるが、全体に占める割合が徐々に低下し、代わって東南アジア諸国、日本、香港、マカオ、韓国からのインバウンド数が年々増加していることも事実だ。

前述のデータから、ここ数年台湾へのインバウンド客が見事に分散され、構成がより多様化していることがわかり、関連業者は将来客層の変容に対応し関連サービスを展開していくことが求められる。しかし台湾の観光インフラは未だ完全ではなく、特に環境の多言語化整備が遅れを取っている。この問題を解決するために、台湾政府は新南向政策対象国の言語人材育成に注力している。新しい教育課程綱要にインドネシア語、ベトナム語、タイ語等を含む7カ国の言語クラスを選択科目として加え、語学力強化に取り組んでいる。また、現在一部の観光スポットやお店では多言語案内表示や紹介の導入が始まっているが、全体的な普及率はまだまだであり、政府と業者は訪台外国人にフレンドリーな環境づくりが求められている。

環境の多言語化以外に、各宗教のニーズに配慮した環境づくりにも取り組むべきだ。例えば、現在訪台ムスリム旅行客数は年間およそのべ17万人ほどだが、2019年に発表された「世界ムスリム旅行指数(Global Muslim Travel Index)」の評価によると、台湾、イギリス、日本はイスラム協力機構が選ぶ最もムスリムフレンドリーな旅行先第3位に選ばれていることから、これからの台湾でのムスリム観光市場は更なる成長が期待できる。イスラムの教義や規範により独自の旅行ニーズがあることから、台湾交通部観光局はムスリムフレンドリーな環境づくりに力を注いでいる。例えば、主要な交通機関や、一部の観光スポット、国家風景区(政府指定の自然文化区域)、高速道路のサービスエリア等に礼拝室や関連施設を設けたり、外食関連ではレストランやホテルに向けてハラル認証の取得を奨励している。現在ハラル認証を取得したレストランは台湾全土に200以上存在しており、さらに継続的に取り組むことで、よりムスリムフレンドリーとなり、これからのムスリム観光市場の成長につながる。
 

       
続いて国内旅行市場についてだが、台湾交通部観光局の統計によると民国107年(2018年)における国民国内旅行者総計及び国内旅行費用総額は下降傾向にある。それはLCCの登場で旅行コストが低減したことにより、国内旅行需要に対しクラウディングアウト効果が働いたことが1つの原因として考えられる。他にも高額な宿泊費用や、地域色の薄い類似商品も国民の国内旅行に対する意欲低減を引き起こしている。

圖6
出典:中華民国交通部観光局
図6 民国103年~107年(2014年~2018年)国民国内旅行者数総計及び国内旅行費用総額

インバウンド数の急激な成長を受けて、台湾観光インフラの潜在的問題が顕在化し始めている。例えば一部の観光商業エリアでは乱雑で人ごみで溢れ、トイレや駐車場が不足している。旅行商品に関しても各観光スポットや夜市、商業施設が互いを真似しあう事態に陥り、同質性が高く、他商品との区別化できていない。他にも一部の観光施設では掃除や管理が行き届いておらず、放置される事態まで起きている。また多言語に対応できる環境や、特殊な食事のニーズに対応できるレストランが不足している観光地も多く存在していたり、都心から比較的遠い地域では交通の便が悪いなど、フレンドリー度とアクセス性に欠け、国内外旅行者を引き付ける上での大きな障害となってしまっている。

台湾の観光環境は、インフラ強化の他に、旅行体験のクオリティ、多様性、地域色の向上が求められている。情報が氾濫する時代の中、ハイクオリティな旅行のニーズが増加している。台湾は豊かな自然風景、歴史と文化を有し、また地域ごとに全く異なる特色を持つことから、観光において大いにポテンシャルを秘めていると言える。日本では国内旅行需要は海外旅行需要を大きく上回っている。それは、日本各地の習俗や特色が際立っており、国内旅行商品であっても十分な魅力があることが理由の1つだ。他にも日本国有鉄道(国鉄)が1970年に打ち出した「ディスカバー・ジャパン」キャンペーンが、見事に郊外や地方をふるさとの良さ、懐かしさが見つかる旅先として仕立て上げた。それによって旅行において文化的要素が重要視され、地域活性化につながった。

以上から、適度なパッケージング、マーケティングは人々の旅行動機付けとなるだけでなく、旅行体験が向上し、地方創生と相まってより良い循環を促進することがわかる。2019年に屏東県がコンテンツやストーリー性、美的センスにこだわったデザインを駆使し、地域産業や人文社会、自然景観を紹介した旅行ガイドブックは、その素敵な出来栄えにネット上から大きな反響と問い合わせが殺到した。つまり、ガイドブックによって屏東の美が上手く発信されたのだ。以上に鑑みて政府と旅行業者は、如何に旅行体験を充実させるかを考えるべきである。旅行商品の中身とストーリー性を充実させ、旅行と環境のクオリティを向上させれば、インバウンドのリピート率が増加するだけでなく、国内旅行市場の拡大にもなり、健全な旅行エコシステムと口コミを生み出すきっかけとなる。

また、旅行市場の流れにのるべく、台湾交通部観光局は民国106年(2017年)より「永續觀光(持続可能な観光政策)」を推進している。これは多元的な市場開拓を通じて、国民旅行の奨励、産業転換の指導、スマート観光の発展、体験型観光の推進等を図り、各方面のリソースを集結させ、地域の資源や特色、産業と融合させることで、台湾観光インフラの強化と競争力の向上に寄与する狙いだ。それに伴い旅行関連業者は持続可能な発展趨勢を見極めていく力が求められている。

しかしながら、観光旅行業は外からの影響に左右され易い産業とも言える。新型コロナウイルスが世界で蔓延している中、中国では旅行会社やオンライン旅行会社の営業が全面的に中止され、世界の旅行関連業界にも大きな打撃を与えている。世界旅行ツーリズム協会によると、2003年SARSは世界の観光産業に約300億ないし500億米ドルの損失を与え、2009年新型インフルエンザの世界的大流行は約550億米ドルの損失を与えたという。中国の世界経済に対する影響力は益々強まり、2019年の中国アウトバウンド数はのべ1.59億人、海外での旅行支出は2,750億米ドルに達し、世界最大のアウトバウンド国となっている。そのため新型コロナの流行が世界の旅行産業及び関連産業に与える打撃はSARSの比ではないほど深刻なのだ。
 

台湾は2003年のSARSの影響により、インバウンド数がどん底に落ちた。同年5月の訪台外国人数はのべ40,256人足らずで、前年比82.92%減少と、関連産業に致命的なダメージを与えた。しかし2003年当時、台湾にとって中国はまだ主要なインバウンド客ではなかった。従って今回の新型コロナの流行が長引いてしまうと、台湾約4、50社の中国人団体客向け旅行会社は真っ先に被害を被ることになる。感染症流行の先行きは不透明であるため、各国は水際対策や渡航制限を更に強めており、それを受けて国内外旅行者の旅行意欲は低減し、短長期のアウト・インバウンドのキャンセルが相次いでいる。感染状況が深刻な地域を避けるため、旅行先を変更する旅行者も多く、無給休暇を出す旅行会社が増加した。関連産業に与えるコロナショックの深刻さが垣間見える。台湾の国内旅行市場及び関連サービス業が受けた被害は、流行が収束して初めて立て直すチャンスが得られることだろう。

 
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